手術が主流の胃がん治療において、放射線治療が行われるのはどのようなときか。放射線治療の効果や副作用などを紹介します。
胃がんで放射線治療を行う場合、胃の中に食べ物が入ると胃が拡張し、がんや胃の一部が放射線の照射範囲からずれてしまうことがあるので、空腹時(朝食前)に行われるのが一般的です。
放射線治療の前に、CTで胃やがんがある部分、周辺臓器の位置を確認して、胃がんが呼吸によって動くことも考慮しながら、照射する範囲を的確に決めます。
通常、放射線治療は、週に4~5日、1日に1回照射する治療を、4~5週間、続けて行います。1回に照射する放射線の量は、がんの状態などによって違います。
放射線治療の効果をさらに高めるため、抗がん剤が投与されることもあります。
放射線の副作用は、治療中や治療直後のほか、治療後半年から数年経ってからあらわれるものもあります。
放射線の照射中や直後には、放射線によって胃粘膜が荒れ、胃炎や胃潰瘍のようになり、食欲低下、吐き気、嘔吐、放射線酔い、全身倦怠感などの副作用があらわれることがあります。
また、周辺の臓器にも影響が出ることがあり、腸管のぜん動亢進によって下痢や軟便、腹痛などが起こる場合もあります。こうした副作用の多くは、治療後、1~2週間でおさまるといわれています。
胃がん治療における放射線治療は、少なくとも第一選択となる治療法ではありません。とはいえ、胃がん症例において放射線治療がまったく行われないということではないので、誤解のないようにしてください。
以下、胃がんも含めて一般に行われている放射線治療の種類と目的、適用等に関する詳細を確認しましょう。
後で説明する「密封小線源治療」が狭い範囲に強い放射線を照射する治療法であるのに対し、「外部照射法」は、言わば広い範囲に弱い放射線を照射する治療法です。病巣が広い場合、また予防を兼ねて病巣周辺にも放射線を照射したい場合に有効です。
ただし、正常細胞にも放射線を照射してしまうことになるため、一回あたりの放射線の量を適切に調整しなければなりません。また、治療を受ける患者さんの動きによって、放射線の範囲が病巣からはみ出てしまうことがあるので、ある程度の余裕をもった範囲に放射線を照射することが必要となります。
外部照射法は、具体的に次の4種類に分けられます。国立病院機構大阪医療センターの公式HPから引用します。
I) 照射単独
各種悪性・良性腫瘍および(動静脈奇形などの)良性疾患にたいして放射線だけで病気を治す目的でおこないます。術前や術後の放射線治療よりはたくさんの量の放射線で治療します。
II) 術前照射
根治手術の前に行います。眼には見えない周辺への転移を予防しつつ、手術で取り易くなるように腫瘍を縮小させるのが目的となります。
III) 術中照射
胃癌、膵癌などの手術中におなかを開けた状態で患部に(一回しかできないので)たくさんの放射線をあてて手術による取り残しを予防するという治療です。
IV) 術後照射
手術後に取り残した可能性のある患部や微少転移に対して照射を行います。
放射線の照射機能を持つ小さなカプセル(線源)を体に入れ、このカプセルから病巣に向けて放射線を照射する治療法。特に前立腺がんや子宮頸がんの放射線治療において多用される方法です。
カプセルから放出される放射線の量は徐々に減り、最後は体の中にカプセルだけが残った状態となりますが、これによる健康への影響はありません。
密封小線源治療は、大きく分けて「腔内照射」と「組織内照射」の2種類があります。
I)腔内照射
子宮、食道、胆管、気管支、上咽頭などの自然腔に治療用アプリケータを挿入して行います。
悪性腫瘍だけでなく閉塞性動脈疾患などの良性疾患なども対象となります。長所は体内に刺入しなくてよいので技術的に簡単であること、欠点としては正常の管腔越しに治療するので管腔から体内深くに浸潤している腫瘍には効果が低くなることが挙げられます。
II)組織内照射
頭頚部腫瘍、骨盤部腫瘍、皮膚癌、乳癌、軟部組織腫瘍およびケロイド、翼状片などの良性疾患などが対象となります。
治療用線源を一時的に埋め込む場合と永久に埋め込む場合とがあります。
一時刺入の方が一般的ですが、前立腺癌におけるヨード-125の永久埋め込みは治療期間が短期間ですみ、入院日数も少なくて済むという利点からアメリカなどで爆発的に流行しています。
この治療の長所は、腫瘍に直接刺入するため腫瘍そのものに最も高い線量が照射され、正常組織への被曝が最小限となる点です。
その意味で理想的な放射線治療といえます。
短所としては、刺入可能な部位に治療が限られること、治療可能な設備を持った施設、技術を持った医師が少ないことが挙げられます。
「腔内照射」が口や気管支、子宮などの自然孔からカプセルを入れる治療であるのに対し、「組織内照射」は外科的な処置によって病巣にカプセルを入れる治療となります。
胃がんの治癒を目的において、放射線治療は第一選択となることはありません。その一方で、胃がんの症状緩和を目的にした放射線治療は、近年、学会などで注目を集めています。
下記の報告は、胃がんに伴う胃壁からの出血防止に対し、放射線治療は有効であるという内容。
三菱京都病院腫瘍内科緩和ケア内科では、同院における進行胃がん患者に対して症状緩和を目的に放射線治療を行ったうえで、「良い選択肢となる治療」との結論を導き出しています。
2006 年 4 月~2014 年 3 月の間に当院で非切除進行胃がんの患者の症状緩和目的に放射線治療を施行した 11 例について検討した.治療目的は止血 8 例,狭窄解除 4 例であった.止血奏効率は 63%,狭窄解除奏効率は 50%であった.止血奏効期間中央値,狭窄解除奏効期間中央値はそれぞれ 103 日,52 日であった.全生存期間中央値567 日で,照射開始後生存期間中央値は 105 日であった.症状緩和目的の放射線治療は,外科的治療や内視鏡的治療より効果発現までに時間を要するため,症例を選べば一定の効果が期待でき,低侵襲であるため,よい選択肢となる治療である.
一般的に、胃がんの症状緩和を目的とした治療は、第一に薬物療法が検討されます。薬物によってコントロールできない出血については、内視鏡治療や外科的手術などが行われるのが通常です。
しかし、胃壁からの出血の場合、内視鏡によって止血することは困難。また外科的手術は、侵襲性の観点から敬遠されがちです。こうした事態に対し、以前より放射線による止血治療が試みられることがありましたが、その治療実績について明確なデータは少ないというのが現状でした。
近年、上記の三菱京都病院腫瘍内科緩和ケア内科に加え、日本放射線腫瘍学研究機構など、複数の研究チームにより胃がんの止血に対して放射線治療が有効であるとのデータが示されています。
従来、胃がんに対する放射線治療は強い関連性のない領域でしたが、胃がんの症状緩和を目的とした領域において、放射線治療は強い存在感を示し始めています。
胃がんの場合、胃がんのがん細胞が放射線にあまり反応しないこと、胃の周辺にある、がんに冒されていない臓器が放射線に弱いことなどから、放射線治療が主力の治療法になることはあまりありません。
しかし、切除できない進行がんや抗がん剤が効かない進行がん、再発した胃がんなどに対する補助的な治療法として用いられる場合があります。
とくに、がんが骨に転移して、強い痛みのある患者さんに対しては、症状を軽減する目的で放射線治療が行われています。また、骨転移すると、骨がもろくなり、骨折をしやすくなるので、放射線治療をすることで、骨折を予防する効果も期待できます。
さらに、胃がんが血管を通して脳に転移した場合、脳に対する抗がん剤は一般的ではないため、放射線治療が主に行われます。放射線治療は、がん細胞が分裂して増える際に作用し、がん細胞が増えないようにしたり、細胞が新しい細胞に置き換わる際、脱落するよう促し、がん細胞を減らしたり、消滅させたりしていきます。
放射線治療では、その臓器を切除せず、そのまま残せるので、臓器の働きを阻害せずにすみます。放射線治療にはいろいろなメリットもありますが、胃がんの場合の治療法としては、手術による切除と抗がん剤治療が主流です。
当記事は、九州大学病院がんセンター(福岡県)、東京放射線クリニック(東京都)、国立病院機構大阪医療センター(大阪府)、広島市立広島市民病院(広島県)などが公表している情報を参考にして作成しました。
名称 | 九州大学病院がんセンター |
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センター長 | 水元 一博 |
所在地 | 福岡県福岡市東区馬出3-1-1 |
TEL | 092-641-1151 |
診療時間 | 初診 8:30~11:00 |
休診日 | 土曜、日曜、祝日、年末年始(12/29-1/3) |
九州大学医学部放射線学にて、臨床はもとより教授も務めるドクター。同院の放射線治療を先導するリーダー的な存在の一人です。
専門分野は腫瘍核医学、およびPET。日本医学放射線学会診断専門医、日本核医学会専門医、PET核医学認定医など、放射線に関する専門医資格を数多く保有するエキスパート。
名称 | 東京放射線クリニック |
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院長 | 柏原 賢一 |
所在地 | 東京都江東区有明3-5-7 |
TEL | 03-3529-5420 |
診療時間 | 9:00-18:00 |
休診日 | 土曜、日曜、祝日 |
1982年、京都府立医科大学卒業。徳島大学医学部彫斜線医学教室講師、愛媛県立中央病院放射線科部長を歴任するとともに、渡米してハーバード大学やワシントン大学でも研鑽を積んだ放射線医療の専門ドクター。2008年より、東京放射線クリニック院長を務めています。「患者のQOL向上に対し、放射線ができることはまだまだある」と語り、放射線医療の可能性を追求し続けているドクターです。日本医学放射線学会放射線専門医。
名称 | 国立病院機構大阪医療センター |
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院長 | 是恒 之宏 |
所在地 | 大阪府大阪市中央区法円坂2-1-14 |
TEL | 06-6942-1331 |
受付時間 | 初診・予約の再診 8:30~12:00 放射線科は~11:30 |
休診日 | 土曜、日曜、祝祭日、年末年始(12/29-1/3) |
大阪医療センターの放射線科にて、自身を含め4名のドクターが所属する放射線治療科のリーダー。機械的に放射線治療を行うだけでなく、患者一人ひとりに親身になって寄り添う姿勢で、日々、患者にも家族にも温かい医療を提供しています。
放射線治療の専門医資格を保有するとともに、指導医として後進の指導にも熱心なドクターです。
名称 | 広島市立広島市民病院 |
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院長 | 荒木 康之 |
所在地 | 広島県広島市中区基町7-33 |
TEL | 082-221-2291 |
受付時間 | 初診 8:30-11:00 |
休診日 | 土曜、日曜、祝日、12/29-1/3 |
1994年、愛知医科大学医学部卒業。広島大学病院放射線科での研修を経て、広島赤十字・原爆病院放射線科等での勤務ののち、広島市民病院放射線科に入職。2015年より、同院同科の主任部長を務めています。「科学的根拠に基づいたテーラーメイド放射線治療の提供」がモットー。
日本放射線腫瘍学会専門医、医学博士などの資格を保有。臨床放射線論文賞、広島医学会賞、「ドククターオブドクターズネットワーク」にて優秀臨床専門医など、受賞歴も豊富です。
広島市立広島市民病院 放射線科 伊東 淳・岡部智行・影本正之「胃癌に対する放射線治療」(pdf)
平本 秀二,菊地 綾子,吉岡 亮,大津 裕佳,小東 靖史,後藤 容子,堤 ゆり江,平岡 眞寛,小野 公二「進行胃がん患者に対する緩和的放射線療法の有用性」(pdf)
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