末期の胃がん患者や、高齢の患者、胃がんの治療として胃の摘出手術を受けた患者の中には、一時的に幻覚を見たり、錯乱したり、様々な妄想状態に陥るといった「せん妄」の症状を引き起こす人がいます。
せん妄は多くの場合、一時的な症状で、その治療も可能とされていますが、一方で末期の胃がん患者で、特に死亡の直前(数時間~数日前)になってくると、臓器不全などによってせん妄が長く続いてしまう場合も珍しくありません。
その為、せん妄の状態や原因について見極めることは、特に末期の胃がん患者においては非常に重要なポイントといえるでしょう。
せん妄とは、記憶障害や意識障害、注意力低下、意識の混濁、幻覚、錯乱、妄想など、人の認知機能や精神に関する障害を引き起こす症状です。
せん妄には、それを引き起こす何らかの原因があり、いきなり症状が起きることと、1日の中でも状態が変化することが特徴です。場合によっては、突然に発症して、すぐに症状が治まり、また発症するというように、出現と消失を行ったり来たりするような患者もいます。
また、不眠や中途覚醒など、睡眠に関する障害を伴うことも少なくありません。
せん妄によって異常が生じるものとしては、以下のようなものが挙げられます。
患者はあまり活発でなく、眠そうに見えたり、だるそうに見えたりと、抑うつ状態にあるように思われます。
落ち着きがなくなったり、急に怒鳴り声を上げたり暴れたりというような、非常に活発な状態になるせん妄です。
低活動型と過活動型を繰り返すようなタイプのせん妄で、その交代は1日の中で何回も訪れることもあります。
胃がん治療で胃の摘出手術を受けた患者の中には、術後にいったんは落ち着いたものの、数日以内にいきなり錯乱したり幻覚を見たりといったせん妄症状を引き起こす人がいます。
このように、手術をきっかけとして引き起こされる精神障害が術後せん妄です。
一般的に、術後せん妄はおよそ1週間程度で症状が治まっていくとされています。しかし、せん妄による錯乱や幻覚のせいで、暴れたり、点滴のチューブが抜けたりと、安全な治療を継続する上で深刻な問題に発展する恐れもある為、せん妄が見られた際には速やかな処置が欠かせません。
また、一時的に落ち着いている場合でも、せん妄は急に症状が変化することもあり、油断せず経過を観察することが肝要です。
末期がん患者では、全身に転移したがんの影響によって臓器不全が起こることがあります。
そして、このような臓器不全がきっかけとなり、せん妄の症状が引き起こされることも珍しくありません。また、臓器不全によるせん妄では、特に死亡直前(24~48時間前)にせん妄が持続する場合もあります。
臓器不全が起こってしまうと、そのままでは遠からず患者の命は尽きてしまう為、末期のがん患者におけるせん妄は、死期を報せる重要なサインの1つと考えることも可能です。
せん妄は高齢の患者ほど多いとされていますが、一方で高齢の患者では、その行動の変化がせん妄によるものか、認知症によるものかを見極めなければなりません。
せん妄は急激に起こり、さらに症状の変化が繰り返されるので、普段から認知症の気配がなかったにも関わらず、正常な状態からいきなり錯乱したり記憶を失ったりするようになれば、せん妄の可能性が高いと考えられます。
胃がん末期の臓器不全を起因としたせん妄については、治療はなかなか難しい場合もあるでしょう。しかし、術後せん妄に関していえば、予防や治療は可能です。
術後せん妄は、手術によるストレスや胃がんの合併症が大きな原因と考えられており、術前・術後に患者のストレスを精神的にも肉体的にも和らげてやることが、せん妄の予防にもつながります。
術後せん妄では、発症から1週間程度で症状が治まりますが、その間に家族や医療関係者へ強いられる苦労は多大なものになります。その為、睡眠薬や抗精神病薬などを適切に使いながら、その1週間を乗り切ることが、最大の治療法といえるでしょう。
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