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胃がんのステージ別における予後

ここでは、胃がんにおける予後について、様々な側面から解説します。

一般に胃がんの予後については、がん発見時のステージにおける5年生存率において語られることが多いのですが、以下では、それ以外にも手術時点におけるステージ別の予後や、胃がん発症年齢における治療後の予後、がん再発後における予後など、いくつかの角度から胃がんの予後について考えてみましょう。

胃がん発見時のステージ別における予後

国立がん研究センター発表の「がんの統計 ’16」によると、胃がんのステージ別の5年生存率は以下のようにまとめられています。

胃がん発見時のステージ別における予後
ステージ 5年生存率(%)
87.3%
58.9%
42.1%
6.6%

ステージⅠの予後については、非常に良好と言えるでしょう。この表だけでは、胃がんではなく事故などの他の要因で亡くなった人の人数も含まれての統計かどうか判然としませんが、いずれの場合でも、ステージⅠであればほぼ完治すると考えて良い状態と考えられます。

ステージⅡであっても65.7%と、患者の過半数を上回る5年生存率となっています。ステージⅢも、ほぼ半数の患者が5年以上生存している形です。

ところがステージⅣになると、一気に5年生存率が低下。ステージⅣに至らない間に治療を始められるかどうかが大きなポイントとなる、と考えて良いでしょう。

なお、胃がんの5年生存率のデータについては、複数の研究機関から発表されており、各統計における数値には若干の違いがあります。ただし、いずれの統計であっても、ステージⅣから急激に5年生存率が下がる点には違いがありません。

胃がん手術時点のステージ別における予後

国立がん研究センター「がんの統計 ’16」では、胃がんの手術時点でのステージ別について、手術後の5年生存率を公表しています。

上で紹介した「胃がんの発見時点でのステージ」とは異なるタイミングでの統計であることを確認してください。

胃がん手術の時点のステージ別における予後
ステージ 5年生存率(%)
87.6%
60.3%
43.6%
15.3%

ステージⅠ~Ⅲまでの5年生存率については、上記「胃がん発見時のステージ別における予後」と大きな違いは見られません。

逆に、ステージⅣにおける5年生存率2倍以上に上がっているため、可能な患者においては手術が望まれる、ということを示すことになるかも知れません。

ただしこれらの数字は、あくまでも、手術ができた人に限定される数値であることを忘れないようにしましょう。ステージⅣの場合、すでに手術ができない状態の患者も少なくありません。

また、これら手術は胃がんの根治を目指したものなのか、それとも緩和を目指したものなのか等、手術の目的が判然としません。よって上記の数値に関しては参考程度にとどめておくほうが無難です。

胃がんの発症年齢別における予後

俗に「若い人は細胞分裂のスピードが速いので、がんの進行も早く予後が悪い」と言われることがあります。逆に「高齢者でがんを発症した場合のほうが、生存率は低い」と言う専門家もいます。

どちらが正しいのでしょうか?

分化型か未分化型かが問題

細胞の分化度で胃がんを診ると、分化型と未分化型の2種類に分かれることが分かります。一般に分化型は進行が緩やかで、逆に未分化型は進行が速い傾向があります。

これらのうち若い人が発症しやすいがんは、胃がんに限らず未分化型。進行が速いタイプのがんです。逆に高齢者が発症しやすいがんは、分化型。進行が緩やかながんです。

つまり、「若い人はがんの進行が速い」のではなく、「若い人は進行の早いタイプのがんを患いやすい」という見方が正解です。

高齢者の胃がんの予後が悪いという説は本当か?

逆に「胃がんは高齢者で発症したほうが予後は悪い」と語る専門家もいます。実際に、胃がんを患った人の予後を年齢別で比較すると、若い人よりも年配の人のほうが死亡率は高いことが分かります。

しかしながら患者が高齢である場合、胃がん以外にも様々な持病を抱えている可能性が否定できません。健康状態が不良という理由で、手術を受けられない患者もいるでしょう。その結果、胃がんが進行して生存率が下がってしまう、と見ることもできます。

目立った持病がなく健康状態が良好な人については、たとえ85歳を超える超高齢者であっても、手術を受けて症状が回復する例は多く見られます

胃摘出範囲別における予後

胃がんのための胃を摘出した場合、多くの患者において体重の減少が見られます。摘出直後に暴飲暴食をすることは良くありませんが、適切な食事量を維持して体重の減少を抑えることは、予後の治療においても非常に重要な要素です。

胃の摘出範囲による予後への影響について見てみましょう。

体重が著しく減少すると術後の抗がん剤治療に影響を与える

たとえ胃がんの患部を摘出したとしても、その周囲に癌細胞が残ってしまう場合があります。そのまま放置すると再発や転移にもつながりかねないので、術後は、経口抗がん剤「TS-1」を1年間服用し続けることが一般的。この抗がん剤の服用により、5年生存率を10%上昇させることが分かっています。

しかしながら「TS-1」には、抗がん剤特有の強い副作用があることも事実。副作用の症状が強く現れてしまい、服用を1年未満でやめざるを得ない患者も少なくありません。

「TS-1」の副作用と体重には、明らかな相関関係が認められます。

術後の体重減少が15%未満だった患者のうち約7割は、「TS-1」を半年以上飲み続けることができました。一方で術後の体重減少が15%以上だった患者については、その率が半分以下に激減します

予後を良好に維持するためには、適切な体重管理が必要になってくる、ということです。

摘出範囲が広いと食欲がなくなり体重が減少する?

俗に「胃の摘出範囲が広ければ広いほど食欲が減退し、体重の減少を招きやすい」と考えられていますが、これは正しい認識ではありません。がん研有明病院の比企直樹医師によると、「摘出範囲の広さではなく、摘出した部位の違い」により食欲が左右される、ということです。

比企医師によると、胃の過半数を残すことができる「噴門側胃切除」に比べて、胃の30%しか残せない「幽門側胃切除」や、胃の20%しか残せない「亜全摘」のほうが、予後の体重の減りは少ないとのこと。ポイントは、胃の上部にある胃穹窿部を残せるかどうか、という点にあると指摘しています。

胃穹窿部は、グレリンというホルモンを分泌させる部位。グレリンとは食欲を増進させるホルモンであるため、この部位を残せるかどうかが予後の食欲、ひいては予後の体重の増減に影響します。

加えて、グレリンは味覚にも関連したホルモン。欠乏すると味覚が低下して食欲が湧きにくい、といった点も指摘されています。

がん再発後における予後

胃がん再発、または他の場所へ転移する形で再発した場合の予後については、再発時の状態に応じます。

簡単に言えば、再発時のステージがⅠであれば予後良好なことが多く、再発時のステージがⅣであれば予後不良となる可能性が高い、ということです。

再発した場所によっても予後が変わるため、主治医とよく相談のうえ、適切な治療を受けてください。

HER2検査結果が陽性の場合における予後

病理検査において、HER2(ヒト上皮細胞増殖因子2型)という遺伝子が陽性であった場合、胃がんの手術後の予後が不良であることが確認されています。

HER2は、胃がんや乳癌の病理検査において確認される細胞増殖に関わる遺伝子。がん細胞の増殖にも関わっているとされるため、病理検査では一般的にチェックされています。

HER2におけるステージの分け方

HER2の発現率を検査する場合、第一段階としてIHC法という方法が採られます。検査を経て、HER2の発現率に基づき、状態を以下のステージに分類します。

IHC法で「陽性+2」と判定された場合、第二段階としてFISH法と呼ばれる検査を受けます。この検査においてHER2が増えている場合には「陽性」と確定し、逆にHER2があまり増えていない場合には「陰性」とされます。

「HER2陽性」は、術後の独立した予後不良要因

大阪大学消化器外科学の黒川幸典石らの研究グループは、2000年~2006年にかけて、胃がんにより胃の摘出を受けた患者1,153名について、HER2の発現率と予後の関連を調査しました。

この調査において「陽性」と診断された患者は、全体の15.7%にあたる181人。予後の調査も継続して行った結果、「陽性」であることは予後不良を招く独立した要因であることが結論付けられました。

手術後の治療に耐えられる健康な体作りを目指す

仮に胃がんの手術を受けたとしても、治療はそこで終わりではありません。残留している可能性のあるがん細胞を死滅させるための治療、再発を防止するための治療など、がん治療はまだまだ続きます。よって、手術後の治療に耐えられる体を維持することは、予後を左右するうえで大事なポイント。医師からの生活指導にしたがい、術後は健康な体を維持していくように心掛けましょう。

胃がんは、発症時のステージが低ければ低いほど、予後は良好となります。ステージⅠであれば、概ね90%の患者において健康な体を取り戻しています。発症時のステージのみならず、発症年齢の違いや、手術によって摘出した胃の範囲についても、予後に影響を与えかねない要因。予後の状態については、ステージだけではなくて様々な側面から考えるようにしましょう。

参考

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