胃がんの早期発見・早期治療に対し、PET検査は有効なのでしょうか?ここではPET検査の概要、PET検査ガイドラインの紹介、PET検査を得意とする病院などの情報をまとめました。
がん細胞には糖を多く消費する性質があり、その性質を利用してがん細胞の有無を診断する方法がPET検査。糖に似た薬剤を体内に注入し、薬剤が集中する部分にがん細胞があると推定する検査方法です。
ただし、どの部分に糖が集中しているかを外部から判断することは困難です。そこで、PET検査では体内に注入する薬剤を陽電子が放出されるよう加工。この陽電子の移動をPET装置で検知し、がん細胞の有無を推定します。つまり、陽電子が多く集まっているところががんの可能性があるということです。
診断画像では、陽電子の集中している部分が局所的に赤色に発光します。(※1)
がん細胞の検査方法として知られるPET検査ですが、がん以外にも、さまざまな病気の検査を目的に利用されています。たとえば、心筋血流量の検査や脳血流量の検査、認知症の検査、てんかんの検査、骨疾患の検査などです。
これらの検査は目的の違いに応じて、使用される薬剤が異なります。がん検査で用いられるのはFDGという薬剤。そのため、がん発見を目的としたPET検査は、他の病気の発見を目的としたPET検査と区別して、FDG-PET検査と呼ばれることがあります。(※2)
PET検査は次のような流れで行われます。
検査を受ける5~6時間前から絶食します。特に、糖を含む飲食物を摂ると検査に支障をきたすため注意が必要です。
がん検診におけるPET検査は、がん細胞がブドウ糖を多く消費するという性質を利用して行われる検査。静脈注射によって全身に分布したFDG(ブドウ糖に似た薬)にがん細胞が反応して、この反応を検知することがPET検査の目的です。体内に糖が多く残っていると画像が散漫な状態になり、がん細胞を特定することが難しくなります。そういった事態を防ぐため、検査の5~6時間前から絶食が必要となるのです。
絶食して検査を受けた場合と、絶食せずに検査を受けた場合とでは、素人にもはっきりわかるほどの違いがあります。
右は、絶食することを失念してしまい、食事から1時間後にPET検査を受けた人の画像。左は、同じ人が絶食をしてからPET検査を受けたときの画像です。
絶食後の画像では、矢印の部分に乳がんが確認できます。一方、絶食を失念した時の画像では、乳がんの他にも多くの発光部位が存在しているため、がん細胞を特定することができません。
この通り、PET検査を受ける前の絶食は必須。その他にも、糖が含まれたドリンクを飲むことも避けましょう。(※3)
PET検査の内容や流れについて医師から説明があります。説明の前後で、検査着に着替えます。
耳や指から血液を採取し、血糖値を測定します。血糖値が高い場合には、当日の検査が中止となる場合もあります。
FDGと呼ばれるブドウ糖に似た薬を、静脈注射により体内に注入します。
FDGが全身に行き渡るまで、約1時間から1時間半、安静にします。
検査前に排尿をします。FDGが尿とともに膀胱に溜まっていると、検査の妨げになるからです。
装置の上で横になり、撮影に入ります。撮影時間は約30分です。
検査が終了するまでの時間は約2時間。絶食も検査の一環と考えれば、PET検査に要する時間は、合計7~8時間ほどと考えておきましょう。(※3)
PET検査は高額な費用のかかる検査だと言われています。検査機関によって異なりますが、全額自己負担の場合、1回の検査費用は10万円程度。ただし、一定の条件を満たした場合でのPET検査は保険適用になることがあります。
PET検査以外の検査方法や画像診断を受けても、病期診断や再発・転移の診断ができない場合には、保険適用でPET検査を受けることができます。
難治性部分てんかんを患い、かつ外科手術を必要としている場合には、保険適用でPET検査を受けることができます。
大型血管炎を患う患者のうち、他の検査を受けても病変の活動性などの診断ができない場合には、保険適用でPET検査を受けることができます。
この他にも保険適用でPET検査を受けられるケースはあるので、検査を受ける際には、事前に医療機関に確認しておきましょう。
逆に、PET検査の費用が全額自己負担となる例も紹介しておきます。
発見された腫瘍が悪性であるか、良性であるかを識別するために受けるPET検査には、保険が適用されません。
同じ月に同じ病名で2回以上のPET検査を受けた場合、たとえ保険適用の条件を満たしていたとしても、2回目以降の検査費用には保険が適用されません。
種々の状況に鑑みて何らかの病気を有していることを示唆させる、いわゆる「疑い症例」のPET検査については、その検査費用に対して保険が適用されません。
他にも、保険が適用されないケースがあります。検査前、この点についても医療機関に確認するようにしましょう。
PET検査の有用性の評価は、医療機関や医師によって異なります。マスコミ報道などを通じ、中には、がんの診断にはPET検査が万能であるかのような印象を抱いている人もいるかも知れませんが、それは誤解です。
日本核医学会PET核医学分科会がまとめた「FDG-PET がん検診ガイドライン(2012 改訂)」を参照し、PET検査の有用性に関する正しい情報を確認しておきましょう。(※4)
日本核医学会PET核医学分科会は、PET検査について、がん診断に対する一定の有用性を認めています。ただし、PET検査を行う医療者に対して、PET検査を以下のようなものであるとの認識を持つよう注意を促しています。
PET は一度に多くの種類のがんを発見でき、一般にがんの早期発見に少なくともある程度は役立つと期待されるが、他方PETがほとんど役に立たない種類のがんもあるため、がん検診に PET を用いる場合は他の検査を併用する「総合がん検診」が望ましい。
PET がん検診の有効性、すなわちどのがんがどれくらいの精度で発見され、それによって生存年数や QOL がどれくらい延長するかに関して、十分な臨床データが無くエビデンスが不十分である。
本ガイドライン中にも詳述してあるが、PET がん検診を実施するときは、受診者に対してその限界をよく説明したうえで適切な方法で実施するとともに、エビデンスを出すための追跡調査など臨床データの蓄積に努めなければならない。
これら日本核医学会PET核医学分科会の公式見解から、PET検査はがん発見の一助にはなるものの、それ単体では不十分であること、さらにPET検査のエビデンス解明が発展途上であることが分かります。
各種のがんの診断に対するPET検査の有用性について、日本核医学会PET核医学分科会「FDG-PET がん検診ガイドライン(2012 改訂)」を参照して表にまとめました。
がんの種類 | 診断におけるPET検査の有用性 |
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頭頚部がん | 非常に有用 |
食道がん | 有用性は高くない |
肺がん | 有用性が高いと考えられる |
乳がん | 有用性が高いと考えられる |
肝臓がん | 有用性は高くない |
膵臓がん | 有用性が高いと考えられる |
胃がん | 有用性は高くない |
大腸がん | 有用性が高いと考えられる |
前立腺がん | 有用性は高くない |
卵巣がん | 有用性が高いと考えられる |
子宮がん | 子宮頚癌については有用性が高くない 子宮体癌については有用性が高いと考えられる |
悪性リンパ腫 | 非常に有用 |
腎・膀胱がん | 有用性は高くない |
表からも分かる通り、PET検査は、すべての種類のがんの診断に対して有用性が高いものではありません。頭頚部がんと悪性リンパ腫の診断には非常に高い有用性を示しますが、逆に、食道がん、肝臓がん、胃がん、前立腺がん、子宮頸がん、腎・膀胱がんの診断にはあまり向いていないようです。(※4)
PET検査で胃がんが発見されることは稀。胃がんの診断には、以下のような検査が向いていると言われています。(※5)
バリウムを飲んでから胃のX線検査を行い、胃の内側の病変の有無を確認します。
内視鏡を胃に挿入し、映像を通じて胃の内壁の状態を目視で確認します。
先端に超音波装置がついた内視鏡を胃に挿入し、胃の病変の有無を確認します。
X線で腹部の断層写真を撮影し、画像を通じて病変の有無を確認します。
浜松PET診断センターは、その名の通り、PET検査を主要な診断方法に採用しているクリニック。PET検査を得意とするクリニックだからこそ、逆にPET検査が万能な診断方法ではないことも熟知しています。そのため、同センターでは、PET検査を主軸に置きつつ、CT検査やMRI検査、超音波検査、腫瘍マーカー等による別の検査方法も含めて、総合的な視点からがん検診を行っています。
また、PET検査はがんだけではなく、一部の脳疾患の発見にも有効な方法。よって同センターでは、希望者には、がん検診に加えて、PET検査による脳の検診も実施しています。アルツハイマー型認知症などの発見に、PET検査は非常に有効とされています。(※1)
名称 | 浜松PET診断センター |
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院長 | 西澤 貞彦 |
住所 | 静岡県浜松市浜北区平口5000(浜松ホトニクス中央研究所内) |
TEL | 053-584-6581 |
電話受付時間 | 8:30~17:30 |
休診日 | 土曜、日曜、祝日 |
昭和56年、京都大学医学部卒業。のち福井医科大学助教授などを経て、平成15年より浜松PETセンター院長に就任。平均寿命と健康寿命との差を埋めることを目標に、PET検査によるがんの早期発見・早期治療などを通じ、予防医学の発展・普及に努力するドクターです。
PET検査を積極的に推進している総合南東北病院PETセンター長の鷲野谷医師は、PET検査が苦手とするがんについて、以下の5つに分類して解説しています。(※3)
肺や前立腺に生じたがん細胞は、ブドウ糖の消費量が少ないとされています。よってFDGが集まりにくく、PET検査では、がんの診断が難しいのが現状です。
FDGを分解する特定の酵素を持つがんの場合、PET装置によるFDGの検知が難しいため、PET検査での診断は向いていません。肝臓がんや腎臓がんなどです。
胃がんに見られる薄く広がったがん細胞や、初期段階で小さすぎるがん細胞などは、PET検査で診断することが難しいとされています。
尿には多くのFDGが混入するため、尿に関連する器官(尿管、尿道、膀胱など)に生じたがんをPET検査で診断することは困難です。
脳には多くのFDGが集積するため、PET検査で脳にできたがんを診断することは困難です。
名称 | 総合南東北病院 |
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院長 | 寺西 寧 |
住所 | 福島県郡山市八山田7-115 |
TEL | 024-934-5322 |
診療時間 | 月・水・金 9:00~17:00 火・木・土 8:30~17:00 |
休診日 | 日曜・祝日 |
同院附属南東北医療クリニックPETセンター長。放射線科を専門とし、特にPET診断を得意とするドクター。日本医学放射線学会専門医、日本核医学学会専門医、検診マンモグラフィ読影認定医など、画像診断を専門とした多くの専門医資格を保有しています。
世界最新鋭の内視鏡設備を誇る福岡天神内視鏡クリニック。内視鏡による検査で、これまで数々の消化器官のがん、および、がんに変異する可能性のある腫瘍を発見してきました。院長の相馬ドクターは、内視鏡専門医の立場として、PET検査のメリットとデメリットを次のように語ります。(※6)
- 「がん」の転移や再発を早期で、より小さな病変で見つけることが可能
- PET画像にCT画像を組み合わせることにより、PET画像だけでは判断できないような「がん」の判定精度が高まるようになってきた
引用元:福岡天神内視鏡クリニック「PET検査は、『がん』を早期で見つけるための『がん検診』には適していないことをご存じですか?」
- 食道や胃・大腸・肝臓、肺などの初発のがんの発見が難しい
- 放射性物質であるFDGがもともと集まりやすい脳や肝臓・腎臓・膀胱などの「がん」が見つけにくい
- 血糖値が高い方の診断が難しい
- 放射性物質を体内に入れるため、「被ばく」という問題が出てくる
- PET検査後、放射能が弱まるまで30分~1時間程度別室で待機しなければならない
引用元:福岡天神内視鏡クリニック「PET検査は、『がん』を早期で見つけるための『がん検診』には適していないことをご存じですか?」
なお、デメリット3番目の「血糖値が高い方」という指摘について、具体的には血糖値が150~200mg/dlを超えている人において、PET検査の有用性が下がるとの見解があります。
名称 | 福岡天神内視鏡クリニック |
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院長 | 相馬 渉 |
住所 | 福岡県福岡市中央区天神2-4-11 パシフィーク天神4F |
TEL | 092-737-8855 |
診療時間 | 9:00~18:00(土曜~16:00) |
休診日 | 日曜・祝日 |
大分大学医学部卒業。大学病院や関連施設、また国内最多数を内視鏡検査を誇る「たまプラーザ南口胃腸内科クリニック」等の勤務を経て、2017年7月から現職。専門は消化器内視鏡診断・治療。日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会専門医の資格を保有する内視鏡治療のエキスパートです。
(※2)(PDF)日本核医学会/日本アイソトープ協会「核医学専門医がわかりやすく解説 PET検査Q&A」
(※3)総合南東北病院・広報誌 SOUTHERN CROSS「PET検査を使った『がんドック』とその上手な利用法」
(※4)日本核医学会PET核医学分科会「FDG-PET がん検診ガイドライン(2012 改訂)」
(※5)名古屋大学医学部付属病院消化器外科2「胃がんの発見・進行度診断のための検査」
(※6)福岡天神内視鏡クリニック「PET検査は、『がん』を早期で見つけるための『がん検診』には適していないことをご存じですか?」
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