すでに胃がんの治療を受けた方には釈迦に説法ですが、日本人の相当部分において、「がんの治療には保険が効かない」という思い込みがあります。「がんの治療費はこれだけ高額」というイメージを、民間保険会社の保険商品が暗に謳っているからです。
胃がん治療における保険適用についてのページで詳しく解説していますが、がんの治療には、原則として保険が効きます。よって患者の治療費負担額は、大幅に抑えられます。また、自己負担額に上限が設定される高額医療費という制度もあります。加えて、がんを患った方は障害年金を受給できる可能性があります。よって治療費や生活費の問題は、イメージするほど深刻なものではありません。
ただし、いかに治療費の自己負担額が保険等で抑えられるとは言え、治療が長引けば、累積治療費は高額になります。また、障害年金を受給するためには、各種の要件をクリアする必要があります。
以下、胃がんと障害年金の詳細についてまとめました。
胃がんで受給できる可能性のある障害年金。まずは障害年金とは何なのか、を理解しておかなければなりません。
障害年金は公的年金のひとつです。
「公的年金」と聞くと、高齢になったときに受け取る老齢年金のイメージが強いかもしれませんが、公的年金制度には、次のようなものもあります。
公的年金の給付を受けるためには、毎月の保険料を納付して、制度を支える義務をきちんと果たす必要があります。
- 重度の障害を負ってしまったときに受け取ることができる「障害年金」
- 一家の大黒柱が亡くなってしまったときに残された遺族が受け取ることができる「遺族年金」
障害年金という言葉を聞いたことのある方は、「障害」という言葉を根拠に、「ケガをして後遺症が残った人に支払われる年金」といったイメージを抱いているのではないでしょうか?
このイメージは間違ってはいないのですが、障害年金はケガだけに支払われる年金ではありません。病気も含め、そのカバー範囲は非常に広くなっており、胃がんを始めとするすべての種類のがんは障害年金の支給対象となります。
ちなみに、障害年金の「対象外」となる病気・ケガは以下となります。
また障害年金には、職業によって「障害基礎年金」「障害厚生年金」「障害共済年金」の3種類があることを理解しておく必要があります。
病気やケガを患う前に、どのような職業に就き、どのような年金保険を支払っていたかによって、受給できる障害年金の種類が異なります。
会社員の場合
会社員で、なおかつ厚生年金保険料を支払っていた方は、「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2種類の障害年金を受給することができます。
公務員・私立学校教員の場合(平成27年9月まで)
公務員や私立学校教員で、かつ共済年金保険料を支払っていた方は、「障害基礎年金」と「障害共済年金」の2種類の障害年金を受給することができます。
ただし平成27年10月より、共済年金は厚生年金に統合されたため、以後は「障害共済年金」に変わって「障害厚生年金」が支払われることになりました。
自営業者や短時間労働者の場合
自営業者、または短時間労働者(厚生年金に加入できない勤労時間の方)で、かつ国民年金保険料を支払っていた方は、「障害基礎年金」の1種類の障害年金を受給することができます。
以上が障害年金の概略です。胃がん等を患った場合、これらの障害年金を受給できる可能性があることを理解しておいてください。
障害年金は、年金保険料を原資として支給される仕組みとなっています。よって、年金保険料を納めていない方は、障害年金を受給することができません。また、年金保険料を納めている方であっても、以下の条件をクリアしていなければ障害年金の受給資格がありません。
会社員や公務員等の場合、年金保険料は給与から天引きされています。よって保険料の払い漏れはないでしょう。
一方で自営業者や短時間労働者の場合は、自分の意志で年金保険料を払わなければなりません。過去には保険料を払っていない月もあった、という方も少なくないはずです。老後の年金(老齢年金)受給のためだけではなく、万が一の時の障害年金の受給にも備え、国民健康保険料は漏れなく支払うようにしましょう。支払う余裕がない場合には、国民健康保険料の「免除申請」をしてください。免除許可が下りた期間については、未納期間に含まれません。
がんを患うと、局所的な障害や全身的な衰弱など、様々な障害が発症する可能性があります。この障害・衰弱の程度に応じ、障害年金制度における「障害認定」が行なわれます。
障害年金制度では、障害の程度を1級から3級の3等級に分けます。それぞれの障害の状態を簡単に確認しましょう。
上記の3等級とは別に、障害の程度をより具体的に示した5つの「一般状態区分」があります。
上記の「一般状態区分」に照らし、3等級のいずれに該当するかを判断します。
なお、障害年金は、何らかの障害が生じた場合において年金が支給される制度なので、たとえがんを患っていたとしても、「ア」のように障害が生じていない場合には、等級が認定されません。
がんの症状のレベルは、実に様々です。進行したがんであっても無症状の場合があれば、逆に初期段階のがんであっても症状が生じている場合もあります。見た目には症状のレベルの判断が分かりにくい以上、等級認定の際には医師の診断書が極めて重要な書類となります。
よって、障害年金の認定を申請する際には、医師にその旨を伝え、診断書を詳細に作成してもらう必要があるでしょう。医師に診断書の作成を依頼する際には、障害や衰弱の状態を、具体的に記載してもらうよう伝えてください。
胃がんを発症して障害年金の受給に至ったケースについて、以下、具体例を見てみましょう。障害・衰弱の程度に対し、年間で支給される年金額をイメージしてみてください。
年額120万円
患者は40代女性。がんを発症し、進行が早く胃の大部分を手術で摘出しました。胃の摘出に伴い、人工肛門を設置。また、がんの転移も見られたことから、肺の一部も摘出しました。
症状のレベルは、自力では日常生活が困難な状態。障害基礎年金2級と認定され、年額120万円の障害年金の受給が決定しました。
年額100万円
患者は30代女性。食欲不振や吐き気などを自覚することはあったものの、仕事のストレスだろうと考え、病院での検査をせずに放置。しかしながら、日に日に状態は悪化し、ある日、吐血しました。大病院で検査を受けたところ、末期の胃がんであることが判明。以後、自力で身の周りのことができない状態まで症状が悪化しました。
症状のレベルは、自力では日常生活が困難な状態。現在は入院中で、終日、ほぼ寝たきりとなっています。障害基礎年金1級と認定され、年額で100万円の障害年金の受給が決定しました。
年額100万円
患者は30代の専業主婦。7年前に腹痛を覚え、しばらく様子を見ていたものの、空腹時になると激しい胃痛に襲われたためクリニックを受診。精密検査の結果、胃がんであることが判明しました。胃と卵巣を全摘出し、かつ人工肛門を設置しました。現在はステージ4。抗がん剤を服用しながら、自宅で療養生活を送っています。
症状のレベルは、自力での日常生活が大幅に制限されている状態。障害年金2級と認定され、年額100万円の障害年金の受給が決定しました。
年額120万円
患者は50代男性。食欲不振や胃もたれなどを自覚していたものの、仕事のストレスが原因であろうと放置。次第に胃痛や吐き気などの症状が現れ、かつ快方に向かう気配が感じられなかったため、近所の個人クリニックを受診。胃炎と診断されました。
その後も定期的に同じクリニックに通院していたものの、50歳になり吐血・貧血・嚥下困難などの症状が現れ、大病院で精密検査。結果、末期の胃がんと診断されました。
大病院を受診した時の状態のレベルは、家族の支援なくして自分の身の周りのことができない状態。5年さかのぼって障害年金1級と認定され、年額で120万円の障害年金の受給が決定しました。
がんの治療には、原則として保険が効くこと、高額医療費の制度を利用できること、そして、障害年金を受給できる可能性があることを冒頭で説明しました。加えて、民間の医療保険等にも加入していれば、預貯金とあわせて治療費も生活費も賄える、と思った方もいるかも知れません。
確かに、これらで治療中の当面の治療費や生活費を賄うことは可能かも知れません。しかしながら、治療が長期に及んだ場合は、その限りではありません。
がんの治療においては、保険が効く上に高額医療費の制度があるため、治療費がいくらであれ、月の自己負担額の上限は決まっています。胃がんの手術代の平均額は約100万円ですが、70歳未満の標準報酬月額28万円の方の場合、自己負担額は約9万円で済むことになります。
しかし、がんの治療は手術だけで終わるものではありません。再発を予防するために、一般には、手術後も化学療法などを続けることになります。また、手術以外の方法で治療を受ける方についても、治療によってすぐにがん細胞が死滅するとは限りません。
もちろん、手術や他の治療法によって、すぐにがん細胞が消滅したのであれば、治療費の自己負担額は少なくて済むことでしょう。しかしながら、症状がなかなか改善しない場合や、逆に症状が悪化した場合などは、治療が長期に及ぶ可能性があります。治療が長期に及んだ場合、ともすると、高額医療費の上限である約9万円を払い続けなければならないかも知れません。
がん治療に保険が効いたとしても、また障害年金を受給できたとしても、治療が長引いた場合には自己負担の総額が大きくなることも理解しておきましょう。
匿名(女性)
相談時の相談者様の状況
以前、年金事務所に相談したときに無理だと断られ、あきらめていましたが、当センターの障害年金制度告知チラシをご覧になられて可能性があるかも・・・と思われ、ご連絡頂いたのは栃木に嫁いだ娘さんが胃がんだという郡山市在住のお父様でした。
お話を聴いてみると、お父様は1ヶ月に10日ほど娘さんの嫁ぎ先の栃木に看病をしに通っているとのことでした。
娘さんは抗がん剤治療、人工肛門、胃と卵巣の全摘出でステージ4の末期でした。
お父様は肺がんで肺の手術をしていて体調が優れないため、今後娘さんをどのように看病したらいいかわからず不安がられていました。
7年前、娘さんはお腹の痛みを感じ、しばらく様子をみていましたが、空腹時に相当な胃痛があっためクリニックを受診しました。
子どもが幼少期であったため、精一杯子育てをされていましたが、胃がん宣告をされ、家族・子どもについて将来について考えると相当な不安と心配が押し寄せてきたそうです。
次第に子どもの学校行事などに参加することができなくなり、子育てをすべてお願いせざるを得ないようになりました。
子どもに寂しい思いをさせてしまったことがつらく、家でずっと抗がん剤の副作用と戦っておられました。
相談から請求までのサポート
ご両親が常に病院に付き添われていたため、病院関係の書類をご両親にお願いをしました。
まず初めに、ご両親に受診状況証明書を取っていただくようお願いをし、初診日を確定させました。
その後、現在娘さんが入院している病院に診断書を作成していただきました。
診断書を医師の方に作成頂く際、娘さんやお父様からお聞きした生活状況を克明に記録した生活レポートを提出しました。
最初はお父様から娘さんの生活状況をお聞きしていたのですが、詳細なことが分からなかったため、最後には、娘さんにお電話をし、ご本人に書類を確認していただきました。
結果
電話と郵送のやりとりで無事、障害基礎年金2級が決定し、約100万の受給が決定しました。
「受給ができて助かった」とおっしゃっていただき、家族の方は大変喜んでいただきました。
医師の診断書には多くの場合、客観的かつ正確に書かれた生活レポートが必要です。
今回のケースは抗がん剤治療をしていると日常生活の2週間以上は苦しくて日常生活もままならない状態ということを実情どおり、診断書に反映していただくために、医師に提出する資料に「日常の様子の資料」等を添付しました。
何回も修正のお願いをすると医師の負担になるため、スムーズに申請をすすめるために、専門家である社労士にまずご相談頂くといいと思います。
さん(男性)
3.内容(どのような病状で、どのような受給が認められたか)
父が胃がんになってしまいました。50歳という若さでの胃がんでしたのでかなりの衝撃を受けていましたが、もちろん仕事することが困難な状態でしたので、退職することになりました。
母に関しては、父の看病をするために仕事を辞めることになったので実質収入がゼロの状態になってしまったのです。
入院費用に関しては、保険でまかなうことができましたが、がん治療に関しては保険に加入していなかったこともあって、退職金やら貯金やらで賄うことになりました。しかし、それだけでは十分に賄うことができなかったので困っていました。
当時、子供である私と姉は大学生でしたので、学費の問題も抱えていたのです。収入がない状態でしたので、困っていたところ障害年金制度を見つけることができました。
生活が困難な人が受給できる制度だったのですが、私の父の場合は収入もなく、貯金もない状態でしたので受給が認められることになったのです。また、胃がんの進行が比較的緩やかだったということもあって、一定期間の受給を認められることになりました。
費用の面で不安を抱えていた父ですが、障害年金制度を利用できて安堵しており、私たち子供も安堵することができました。
4.自分で手続きをしたのか?社会保険労務士を利用したのか?
父が受給する立場だったので私たち子供は、何もすることができませんでしたが、当然父も外出することができない状況だったので手続きが難しい状況でした。
私たち姉妹と母でどうやって受給するかということを調べていたところ、社会保険労務士の存在を知りました。
社会保険労務士を通して手続きをすれば、依頼費がかかってしまうものの、確実に受給できるということを知ったので早速父に紹介することになったのです。
父も快く迎え入れてくれたので、その日のうちに早速手続きをすることになったのです。
私たち家族は、障害年金に対して何もわからない状況だったので、社会保険労務士の人の話を聞きながら状況を理解するのに必死でした。
どうやら、父が受給できるのは一級障害の部類であり、最も高額な障害年金でした。
そのために、申請が難しく中々審査が通らないということを伝えられたのですが、父の状況を判断すると到底仕事に復帰できる様子もありませんでしたし、収入もない状態でしたので受給が認められたのです。
社会保険労務士の人も、最後まで父の障害年金を受給するということに対して熱心になってくれたので良かったです。
受給があったからこその今の父があると感じました。
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