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内視鏡治療

早期の胃がんで受けられる内視鏡治療の方法やメリット、合併症について紹介しています。

身体への負担の少ない胃がんの治療法・内視鏡治療

内視鏡を使って、胃の内側からがんを切除する方法で、早期胃がんで、リンパ節転移の可能性がほとんどないものに適用されます。

リンパ節への転移の可能性がない条件としては、以下の4点挙げられます。

内視鏡治療は、がんを切除した後も、胃が温存されるので、食事への影響がほとんどなく、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)も保たれるというメリットがあります。

内視鏡治療には、内視鏡的粘膜切除術(EMR)と内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)があります。

内視鏡的粘膜切除術(EMR)

がんの粘膜の下に、生理的食塩水などを注入してがんの粘膜を浮かせて、その根元に、スネアと呼ばれるリング状のワイヤーをかけます。

ワイヤーを少しずつ占めていき、高周波電流を使ってがんを切除。切除したがんは病理検査に回され、2mm刻みに顕微鏡で検査し、がんがリンパ管や静脈に広がっていないこと、がんが粘膜内に留まっていること、切り口にがんがなく、完全に切除されていることを確認します。これらの条件に1つでも当てはまらない場合、リンパ節転移の可能性があるため、後日、外科治療を行うことになります。

EMRは、全身麻酔をかけず、1時間以内で終了することがほとんどです。切除した跡にできた潰瘍は、内服薬で治していきます。

治療後の痛みが少なく、数日で食事ができ、1週間ほどの入院ですみます。

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

がんの粘膜の下に生理的食塩水やヒアルロン酸ナトリウムを注入して浮き上がらせ、がんとその周りの組織をITナイフ(内視鏡で使用できる特殊な電気メス)ではぎ取る方法。

大きながんや潰瘍があっても、一度に切除することができます。

EMRと比べて、高度な技術が必要になり、時間もかかりますが、一括で切除することができます。

また、EMRでは対応できない2cmよりも大きながんや、内部に潰瘍をともなうがんにも対応でき、取り残しなく確実に切除できるように開発されているため、現在ではESDが主流になっています。

2006年からは医療保険で行えるようになりました。

早期がんの場合でも、内視鏡治療の条件を満たしていない場合は、外科手術が必要になります。また、内視鏡治療の後でも、病理検査・病理診断でがんの進行が認められた場合には、後日、あらためて外科手術が行われます。

内視鏡治療の治療成績

内視鏡治療にはEMRとESDの2種類があり、現在ではESDが主流であることを説明しました。ESDによる症例もだいぶ増えた昨今、その治療成績に関するデータも豊富に蓄積しています。以下、ESDの治療成績を短期と長期に分け、2つの大学病院からの報告をご紹介します。

ESDの短期治療成績

北里大学医学部附属病院におけるESDの短期治療成績について、同院のデータに関するコメントを見てみましょう。

2002年よりESDを本格的に導入し,2014年8月までに1,879病変の早期胃癌に対してESDを施行してきた。病変の適応条件では絶対適応病変,適応拡大病変が90%を占めるが,適応外病変も10%にみられた。(中略)一括完全切除率は,絶対適応病変97.3%,適応拡大病変92.7%と良好な成績であるが,適応外病変は76.3%と低率であった。

引用元:北里医学 2015; 45: 1-9「早期胃癌に対する内視鏡治療の現況と将来展望」(pdf)

一方、京都府立医科大学附属病院における短期治療成績は以下の通り。

2002年より早期胃癌に対してESDを本格的に導入し,2017年 12月までに 1600病変のESDを施行してきた.R0切除率は,絶対適応病変 96.0%,適応拡大病変 97.6%と良好な成績であるものの,相対適応病変は77.2%と低率であった.

引用元:京府医大誌 127(8),503~ 509,2018.「早期胃癌に対する内視鏡治療の進歩と今後の展望」(pdf)

両院でやや数値の誤差はあるものの、ともにESDの短期治療成績は非常に良好だと言えそうです。

ESDの長期治療成績

次に、ESD長期治療成績について、同じく北里大学医学部附属病院と京都府立医科大学附属病院のコメントを見てみましょう。

Ryuらは局所再発率は,EMRでは9.6%,ESDでは3.5%であったと報告している。Parkらも局所再発率について同様の報告をしており,MR 18%,ESD 3.7%とESDが良好な成績であった。このように,単施設でのEMRとESDの局所再発率を比較した検討ではEMRがESDに比して有意に高いことが示されている。また,多施設の検討においてもESDはEMRと比較して局所の遺残・再発率が低いことが報告されている。我々の検討にでも,局所再発率はEMR 4.2% (15/359),ESD 0.4% 1/264) であり,ESDはEMRと比較し有意に局所再発が低く,局所制能に優れた治療手技であると考えられる

引用元:北里医学 2015; 45: 1-9「早期胃癌に対する内視鏡治療の現況と将来展望」(pdf)

早期胃癌ESDの長期成績については,治癒切除症例,適応拡大治癒切除症例ともに 5年以上の長期経過における後ろ向き検討がなされ,同様に治癒切除症例,適応拡大治癒切除症例とも良好なoverall survivalであることが示された.(中略)全国 29施設から登録された 470例の 5年生存割合は 97.0%(95%信頼区間: 95.0~ 98.2%)と報告され,分化型の適応拡大病変に対するESDの有効性が確認された.

引用元:京府医大誌 127(8),503~ 509,2018.「早期胃癌に対する内視鏡治療の進歩と今後の展望」(pdf)

ESDの長期治療成績について、両院ともに短期治療成績と同様に良好であるとコメントしています。

内視鏡治療の将来像

近年は内視鏡による検診や診断の技術が著しく向上しており、かつESDに代表されるように内視鏡治療の技術も格段に進歩しました。胃がん治療の新たなステージの時代に突入したと言っても過言ではありません。その一方で、内視鏡治療では克服できない症例が多いことも事実です。

内視鏡では治療が困難な症例

現状ではESDで治療できる病変も分化型の粘膜内病変が主体であり,未分化型や粘膜下層癌については外科的胃切除が標準治療となっている。胃癌治療ガイドラインでは,定型的な胃切除術は幽門側胃切除術,もしくは胃全摘術と規定されており,術後合併症としてダンピング症候群や摂食量の低下など,その後の生活の質 (quality of life:QOL) の低下が課題となっている。

引用元:北里医学 2015; 45: 1-9「早期胃癌に対する内視鏡治療の現況と将来展望」(pdf)

上記の指摘の通り、未分化型がんや粘膜下層がんは、一般的には内視鏡治療の適用外です。そのため手術による胃の切除が必要となりますが、切除後のQOL低下が課題となっていることを同院は指摘しています。

超高齢化社会における内視鏡治療の展望

超高齢化社会を迎え,基礎疾患を合併した高齢者の増加が予想される。粘膜下層癌が疑われる場合には,標準的治療は外科手術であるが,超高齢者では術後のQOLの低下が危惧される。このような症例に対しては,ESDと腹腔鏡治療を組み合わせた究極の低侵襲治療が検討されている。すなわち,早期胃癌の局所治療はESDで切除し,リンパ節廓清についてはセンチネル理論 (sentinel node) を用いた腹腔鏡手術により行う方法である。胃が温存され,転移リスクの高いリンパ節切除が行われるため,術後のQOLが保たれる。

引用元:北里医学 2015; 45: 1-9「早期胃癌に対する内視鏡治療の現況と将来展望」(pdf)

これまで社会を支えてきた世代の高齢化が進み、やがて次の世代の高齢化がやってきます。今後訪れる超高齢化社会においては、社会全体における胃がん患者の比率・人数は、現在のそれよりも増大することが予想されます。

胃の摘出手術は、特に高齢者におけるQOLを著しく低下させる要因。内視鏡治療技術のさらなる進化は胃の温存を可能とし、胃がん治療にともなう患者のQOL向上に貢献するでしょう。

胃壁の全層を切除するESDも登場

Hikiらは経口内視鏡で必要最小限の範囲で胃壁全層を切除する腹腔手術内視鏡合同切除術 (laparoscopic endoscopic cooperative surgery: LECS) を考案した。これはまず内視鏡を用いてESDと同様の方法で病変周囲の粘膜切開および粘膜下層を全周性に切開した後,筋層を意図的に穿孔させて病変を全層切除し,腹腔鏡で胃壁欠損部を縫合するという術式である。

引用元:北里医学 2015; 45: 1-9「早期胃癌に対する内視鏡治療の現況と将来展望」(pdf)

これまで粘膜下層がんの切除が不能とされてきた内視鏡治療ですが、近年、胃壁の全層を切除する「腹腔手術内視鏡合同手術」が考案されました。病変を内視鏡で視認しつつ、過不足のない範囲内で病変のみを切除できる低侵襲な治療法として注目されています。なお、同治療法は2014年より保険適用として認められました。

来たるべき超高齢化社会に向け、内視鏡を用いた胃がんの治療法は刻一刻と進歩を続けています。

内視鏡治療を終えた後の流れ

内視鏡治療、特にESDは、たとえ粘膜上のみの切除手術とは言え、その切除範囲は小さくありません。切除した胃が完全に回復するまでに要する期間は約2ヵ月。治療直後は胃が非常にデリケートな状態となっているため、患者はさまざまなことに注意を払わなければなりません。

術後の合併症予防のための対策

ESDを受けた直後は、胃が潰瘍を形成している状態となります。そのため、場合によっては胃から出血を起こして吐血したり、吐き気が生じたり、腹痛を自覚したりすることがあります。術後、これら合併症を予防するために、以下の3点をしっかりと守りましょう。

治療当日はベッドで安静にする

治療の当日は、言わば胃の内部が大きなケガをしているような状態。少し体を動かしただけでも、胃の内壁から出血が生じて吐血する恐れがあるので、最低でも治療当日はベッド上で安静にしましょう。

なお、治療後の麻酔がしっかりと抜けていない状態で立ち上がると、ふらついて転倒することがあります。麻酔から目が覚めても無理をせず、用事のある場合にはナースコールを利用してください。

水分摂取量を控えめにする

治療の当日は、原則として水分の経口摂取が禁止となります。胃の内壁に刺激を与え、出血する恐れがあるからです。治療の翌日からは水分摂取が可能となりますが、くれぐれも水を摂り過ぎないように注意しましょう。治療翌日以降とは言え、胃に刺激を与えることは良くありません。

なお、経過に問題がなければ、治療の3日後より食事が可能となります。

点滴・内服薬の投与を続ける

手術前に点滴が入り、手術後3日間は点滴を付けたままの状態となります。また、胃潰瘍の治療薬も術前から服用し、術後3日間は服用することに。医師の指示に従い、これらを継続する必要があります。

退院後の生活に関する注意点

退院後の生活においては、特に食生活を原因とする合併症を予防するため、栄養士による食事指導が行われます。患者本人はもちろん、家族も同席のうえでの指導となります。退院後は栄養士の指導を忠実に守るようにしてください。

加えて、次の受診(約2週間後)までの間は、以下の4点に注意しましょう。

入浴について

入浴すること自体は問題ありません。ただし長湯して体を温め過ぎないようにしてください。血行が良くなりすぎて、胃から出血する恐れがあるからです。

運動について

ウォーキング程度の適度な運動なら可能です。ただし、水泳などの負荷の大きな運動は控えましょう。また、この間は出張や旅行などの遠出も控えるようにしてください。

仕事について

デスクワークの方であれば、問題なく仕事復帰が可能です。ただし体を激しく酷使する仕事については避けてください。自己判断が難しい場合には、主治医に相談しましょう。

嗜好品について

アルコールや香辛料など、胃に刺激のあるものを摂らないようにしてください。また、煙草には胃を収縮させる作用があるため、喫煙も控えましょう。

合併症が危惧されるケース

退院後、次のような症状が見られた場合には、次回受診日を待たずに速やかに主治医に相談してください。

上記のような症状が見られた場合、内視鏡治療の影響による合併症を発症している恐れがあります。遠慮せず主治医に相談をするようにしましょう。

内視鏡治療の合併症

内視鏡を使ってがんを切除するため、切除後も胃が温存され、外科治療と比べて入院期間も短いという利点があります。

身体への負担は少ないのですが、合併症もあります。

出血や、内視鏡治療により胃に穴が開くこと、切除した部分が潰瘍となるので、軽い痛みがある場合も。

そのような場合には、内服薬が処方されるので、指示通りに服用し、食事は消化の良いものを摂るようにします。

痛みが強かったり、いつまでも続く場合や、黒色便が出たり、血液が混じった嘔吐物がある場合には、主治医の診察を受けるようにしましょう。

意見を参考にさせていただいた医療機関

当記事は、兵庫医科大学病院(兵庫県)、近畿大学医学部附属病院(大阪府)、内藤病院(福岡県)、国立病院機構大阪医療センター(大阪府)、富山逓信病院(富山県)などが発信している情報を参考にして作成しました。

兵庫医科大学病院

兵庫医科大学病院
https://www.hosp.hyo-med.ac.jp/index.html
名称 兵庫医科大学病院
院長 難波 光義
所在地 兵庫県西宮市武庫川1-1
TEL 0798-45-6111
受付時間 8:30~11:00
休診日 日曜、祝日、第2・第4・第5土曜、年末年始(12/29-1/3)

主任教授・内視鏡センター長 三輪洋人医師

1982年、鹿児島大学医学部卒業。消化器内科、特に胃と食道に関連する疾病の診断・治療を専門としているドクターです。内視鏡による胃がんの早期発見、および化学療法も得意。

日本内科学会認定医・指導医、日本消化器学会専門医。指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医など、専門医資格を数多く保有。日本消化器学会では理事も務めています。「NHK健康ch」の解説者など、メディアにもたびたび登場するドクター。

近畿大学医学部附属病院

近畿大学医学部附属病院
http://www.med.kindai.ac.jp/
名称 近畿大学医学部附属病院
院長 東田 有智
所在地 大阪府大阪狭山市大野東377-2
TEL 072-366-0221
受付時間 予約外又は紹介状がない方 8:30-11:00(土曜は8:30-11:00)
紹介状をお持ちの方 8:30-14:00(土曜は8:30-11:00)
休診日 土曜午後、日曜、祝日、大学創立記念日(11/5)、年末年始(12/29-1/3)

上部消化器官外科診療部長 安田卓司医師

1986年、大阪大学医学部卒業。同大学医学部付属病院にて研修医を務めたのち、大阪府立成人病センター医長、大阪大学大学院助手などを歴任し、2013年より近畿大学医学部教授に就任。専門は外科系臨床医学, 消化器外科学で、食道や胃の進行がんに対する化学療法、化学放射線療法、がんワクチン療法、手術を得意としています。PET診断に基づく個別化治療の確立も積極的に推進しているそうです。

内藤病院

内藤病院
http://www.shoufukai.or.jp/index.html
名称 内藤病院
院長 内藤 雅康
所在地 福岡県久留米市西町1169-1
TEL 0942-32-1212
受付時間 平日 9:00-17:30、土曜 9:00-12:30
休診日 火曜午後、土曜午後、日曜、祝祭日

院長 内藤雅康医師

福岡大学医学部卒業。ハーバード大学がん研究所ドクターフェロー等を経て、現在、内藤病院の院長として消化器外科・腫瘍外科・腫瘍免疫を専門に診療しています。

日本外科学会専門医、日本がん治療認定医などの専門資格を保有するとともに、アメリカ臨床腫瘍学会などの海外の学会にも在籍。久留米大学医療センター特命医師(がんワクチンセンター)も務めています。

国立病院機構大阪医療センター

国立病院機構大阪医療センター
http://www.onh.go.jp/seisaku/cancer/index.html
名称 国立病院機構大阪医療センター
院長 是恒 之宏
所在地 大阪府大阪市中央区法円坂2-1-14
TEL 06-6942-1331
受付時間 8:30~12:00
休診日 土曜日、日曜日、祝祭日、年末年始(12/29-1/3)

外科総括部長・上部消化管外科科長 平尾素宏医師

2989年、大阪大学医学部卒業。消化器外科を専門とし、特に上部消化器(食道・胃)の疾患を中心に診断と治療にあたっています。患者の状態や希望に応じ、QOLを重視した縮小手術から、腫瘍外科学に基づく拡大手術まで多彩な手腕を発揮するドクター。

日本外科学会専門医・指導医、日本消化器外科学会専門医・指導医、日本食道学会専門医など数多くの専門医資格を保有。日本胃癌学会では評議員を務めるなど、消化器系がんの医療分野では名医として知られる存在。

富山逓信病院

富山逓信病院
https://www.hospital.japanpost.jp/toyama/index.html
名称 富山逓信病院
院長 高田 正信
所在地 富山県富山市鹿島町2-2-29
TEL 076-423-7727
診療時間 9:00-12:00 / 13:30-16:00
休診日 土曜、日曜、祝祭日

内科主任医長 稲土修嗣医師

専門は消化器系疾患の診断と治療。中でも特に内視鏡による診断・治療を得意とするドクターとして、これまで多くの胃がん患者の診療にあたってきました。

日本内科学会、日本消化器病学会、日本消化器内視鏡学会、日本医師会などから、専門医・指導医の資格を付与されるなど実力は折り紙付き。日本消化器病学会と日本消化器内視鏡学会では評議員も務めています。

参考文献

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